日本におけるダイバシティマネジメント #2 ダイバーシティ活動の当事者の声

    今回の記事では、女性活躍推進の観点からリーダーとして活躍されている方と障害者雇用の観点から、外資系IT企業で働かれている方をインタビューをし、実際にダイバーシティ活動の当事者として携わっている方の声をご紹介したいと思います。

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    前回の記事では、1.ダイバーシティ&インクルージョンとは何なのか?2.日本におけるダイバーシティ推進の特徴、3.日本政府の取り組みとその成果、4.D&I関連の法律面での整備としてどのようなものがあるのか等の概要についてご紹介しましたが、今回は、実際にダイバーシティ活動の当事者として携わっている方の声をご紹介したいと思います。

    女性活躍推進の観点から、リーダーとして活躍されている南由紀さん(日本トイザらス株式会社人材本部長)と障害者雇用の観点から、外資系IT企業で働かれているM.Nさん(ご本人の希望により匿名とさせて頂きます)へのインタビューを紹介したいと思います。これを読まれている皆さんにとって、現状打破のためのヒントがみつかるのではないでしょうか。

    女性活躍の観点から

       
    回答者

    南由紀さん 日本トイザらス株式会社 人材本部長

    米・ニューヨーク大学卒業後、1993年にAIU保険会社(現・AIG損害保険)に入社し、人事部に配属される。1997年に米系の機関投資家向け情報サービス会社を経て、タワーズペリン(現・タワーズワトソン)に入社。以来10年間、組織人事コンサルティングファームでコンサルタントを経験後、2012年にウォルマート・ジャパン/西友に移り、人財部 バイス・プレジデントとなる。2017年12月よりChubb損害保険株式会社にて取締役を務め、2020年11月から現職。
       

    Q: 現在は大組織のリーダーシップチームの一員としてマネジメントされていますが、社会人に成りたてのころからリーダーになることを意識されていたのでしょうか?

    私は、アメリカの大学を卒業後、外資系損害保険会社に新卒で入社しました。当時、損害保険会社では新卒は基本、損害サービスか営業に配属されるのですが、自分もそうなるだろうと思っていたら、人事部に配属されました。当初は人事がどんな仕事なのかも分かっておらず、目標を持って仕事に取り組むというよりは、目の前のことを必死で取り組んでいた、というのが正直なところです。リーダーになる、という目標を持っていたわけではありませんが、忍耐強く教えてくれる先輩や上司の期待に応えたい、という気持ちは強かったと思います。

    当時は女性の総合職はまだ少なく全体の2割にも満たない状況でしたが、配属された人事部には女性も多く、性別はあまり意識していませんでした。アメリカの大学生活では性別によって不利になるということは感じたことはなかったので、その延長線上で、日本に戻ってきて社会に出てからも自然体で仕事に取り組むことができたのだと思います。今になって思うと、そのような環境を与えてもらったことに感謝しています。

    Q: 初めて管理職になられたのはいつ頃ですか?その時の期待や不安について、もしあれば、教えて頂けますか?

    大学で専攻したファイナンスを活かせる仕事がしたい、という想いが強くなり、損害保険会社から米系の機関投資家向け情報サービス会社に転職したのですが、会社が急成長する中で、入社2年目の20代後半でいきなり10名の部下を持つことになりました。その時は、「やってみるか」くらいの気持ちで一歩踏み出しました。いざやってみると上手くいかなかったり悩んだりすることは沢山ありましたが、やってみる前にあれこれ不安に思わなかったからこそ、その時々の課題に真正面から向き合うことができたのかもしれません。

    今現在もまだ管理職としての悩みは尽きません。組織や人はそれぞれ違うので、いくら経験を積んだとしても、一度上手く行ったことがまた上手くいくわけではありません。そう考えると、新たなチャレンジも「やってみよう」と少し気持ちが軽くなるのではないでしょうか?大事なことは、一歩前へ踏み出すことだと思います。

    Q:「女性はこうだ」という決めつけるような発言は、政治家や公共機関の要職の人からも出てきますが、このような人の意識を変えていくために、これまでのご経験の中で何かおすすめの効果的なアプローチはあるでしょうか?

    女性ということを自分ではあまり意識していなかったものの、悔しい思いをした経験はあります。30代の10年間、組織・人事コンサルティング業界に身を置き、様々な業種のプロジェクトに関わってきましたが、あるクライアントとの最初の顔合わせミーティングで、クライアントから私について「男性のコンサルタントに変えられないのか?」という発言がありました。そのプロジェクトメンバーは私以外は全員男性でした。後日、私は上司からそのことを聞いたのですが、その時上司は「メンバーを変えるつもりはないので、結果でクライアントに証明してほしい」と言ったのです。正直クライアントからの言葉はとてもショックで、自分からプロジェクトを下りようかと思いましたが、上司が自分を信頼してくれたことに何とか応えたいと思い直し、気持ちを切り替えました。結果、そのクライアントからは継続の契約もいただき、その継続契約ではメンバーとして私を指名してもらえるまで信頼関係を築くことができました。

    効果的なアプローチと言うにはあたり前すぎるかもしれませんが、クライアント、同僚、上司であれ、一人の人間として向き合ってもらえるように信頼関係を築くことが大切だと考えています。そのためには、謙虚な姿勢、自分と異なる意見にも耳を傾ける、常に最善を尽くす、など自分がそうしてほしいと思うことを相手にもする、という基本的なことの積み重ねが相手を変えていくことに繋がると信じています。

    Q: 日本のジェンダーギャップ(男女格差)の指数は153カ国中121位という先進国の中でも最低ランクですが、そのような男性中心社会においても、女性リーダーとして組織全体を導くために気を付けてらっしゃることがあれば教えて頂けますか?

    私は「女性のロールモデル」と言う言葉が好きではありません。素晴らしいリーダーがいたら、女性だろうと男性だろうと真似できることを見つけてお手本にしてみることにしています。男性のリーダーを見て「私は女性だからできない」と思うのは、自分をあるグループに分類して、自ら自分にリミット(限界)を設定していることになります。また、男性か女性か、という属性を軸にしてとらえることは、同質性の高い「イングループ」とそのグループに入れない「アウトグループ」を生み出し、分断を招くリスクもあるでしょう。男性・女性という属性に自ら囚われることなく自分らしく自然体で仕事をしていきたい、と思っています。

    組織のリーダーとしては、セルフマネジメントができているか、心に余裕をもって接することができているか、ということは自問自答するようにしています。リーダーは、一人ひとり違う個性を持つメンバーのやる気を引き出し、チームとして成果を上げていくことを求められるので、どんなに大変な時でもメンバーが勇気づけられるようなポジティブなエネルギーを発信できる存在でありたいと思っています。まだまだリーダーとしては成長すべき点があると思っているからこそ、仕事に情熱が湧いてきます。

    Q: 女性活躍推進という観点も含め、これまで取り組まれてきたD&I活動の中でこれは成功したという取り組みがあれば差し支えない範囲で教えて頂けますか?

    以前携わった外資系小売企業の女性活躍推進プロジェクトに携わった時の経験を挙げたいと思います。女性活躍を推進するという目的こそグローバルで共通だったものの、当時の女性管理職比率や課題は各国で異なるため、取り組み内容も日本独自の計画を立てて実行しなければなりませんでした。日本では、店舗における女性店長・副店長のパイプラインを強化することが急務であり、候補者を育成するプログラムを人事部・店舗運営部合同の事務局を設置しました。

    それまでのプログラムの目的が「育成」にとどまっていたのに対し、1年後には必ず「登用」することを目標に掲げました。女性管理職候補だけでなく、その上司である店長と地区長を育成の責任者として任命し、女性候補者と一緒に研修プログラムに参加したり、店舗に戻ってからのOJTがスムーズに行われるよう、上司のマインドセットも変えていく必要がありました。プログラムの集大成となる最終プレゼンテーションについては、上司・部下の二人で共同で実施することとし、そこにたどり着くまでのプロセスを通じて、上司にも育成のオーナーシップが生まれ、その結果、女性の登用数も順調に伸びていきました。

    Q: 2020年10月に発表された、女性の活躍に関する意識調査2020 | ソニー生命保険 によると、18.7%の女性しか管理職になりたい回答していません。女性が管理職になりたくない理由として、「責任が重くなるから」(50.6%)と「ストレスが増えそうだから」(49.7%)、「管理職に向いていないと思うから」(42.8%)、「管理職になる自信がないから」(33.4%)、「管理職を見ていると大変そうだから」(32.5%)が上位5つの理由となっています。女性管理職を増やすためには会社の取り組みとして何が必要とお考えですか?

    意識調査の結果を見て感じるのは、管理職の仕事が魅力的に写っていないということです。管理職になりたい、やってみたい、と思えるような取り組みは急務であると思います。

    例えば、多くの小売では、お客様の多数派が女性ですが、女性店長の数は増えていません。出産・育児休暇の取得率は高くても、復帰の際に出産前に店長だったけど育児と両立できる自信がないので店長を下りたいという女性がまだまだいます。トライアルの期間を設定して不安を軽減する、といった配慮をすることでチャレンジする女性リーダーは増えていくと思いますが、今後も一人ひとりの話に耳を傾けて障害となっていることを取り除いていくことが必要だと感じています。

    Q: 組織をリードしていく立場を目指すかどうか迷っている女性に対して、何かアドバイスがあれば頂けますか?

    日本におけるジェンダーギャップ、そして女性活躍はかつてないほど世界から注目を集めています。管理職を目指したいと思っている女性にとっては今こそチャンスです。これをチャンスと捉えるか、今は難しいけどいつかチャレンジしてみたいと捉えるかは、それぞれ違っていいと思います。

    1つ言えることは、自分でリミット(限界)を設定せず、自然体で自分らしく、目の前のことに謙虚に向き合う、そうすればその先に違う景色が見えます。違う場所に立たなければ違う景色は見えません。その景色に感動し、もっと違う景色を見て見みたい、と思えたら、それがキャリアの階段を一歩一歩登っているということなのだと思います。

    障害者雇用の観点から


    回答者

    M.Nさん

    大学卒業後、サービス業に就職。不規則な勤務形態と慢性的な人手不足から、うつ病を発症。完治を待たずに人材派遣・紹介会社の営業に転職し、一時は売上達成度で社内表彰されたものの、リーダー職になってからは人間関係がうまくいかず、うつ病が再発・退社。1年ほど就労移行支援事業所で再発防止策を学び、障害者手帳を取得した後、外資系IT企業に秘書として再就職を果たした。


    Q: 障害のある方にとって、日本におけるD&Iについてどう感じていますか?

    現在の職務では、私のレポートラインは、グローバルと日本国内の2つのラインになっており、海外と日本でD&Iの浸透度合に温度差を感じることがあります。

    例えば、グローバルチーム(海外)と比較すると、日本では、障害を持っていることをカミングアウトしにくい雰囲気があるように思います。自分自身、自分の近しい人以外の他部署の社員の人には、自分の障害について話しにくいと感じています。

    例えば、グローバルのD&I活動の中で話し合いをしているときに、外国人の皆さんは、オープンに、自分の障害・性的指向・性自認などを開示されることが多いですが、日本の社員と話しているときは、同じようなミーティングでもそこまでオープンに開示する人は少ないです。自分の障害についてもオープンに語れる職場の雰囲気が海外では進んでいる感じがします。カミングアウトしにくい雰囲気があることは、障害者の会社での活躍にネガティブな影響があると思います。逆にいうと、カミングアウトは生産性の向上に直結すると感じています。例えば、LGBTQ+はカミングアウトをすることで仕事の生産性が15%上がるというデータもありますが、障害者についても同じことがいえると思います。

    Q: D&Iの考え方を広げるための活動として、自分が働きやすくなったと感じた会社による活動の例はありますか?

    現在の職場では、元々、グローバル(海外)で推進されていたD&I活動でしたが、近年、有志のD&Iチームが日本ローカルでも組織されるようになり、D&Iの考え方が少しずつ広がってきているように感じています。日本での活動については、PODという役割(マイノリティにフォーカスしたイベントを企画運営する人)の人がいて、各PODがLGBTQ、ウーマン、障害者に関するイベントを、それぞれ四半期に1回くらいの頻度で、社員の人が自由に参加できる形で実施しています。このイベントに伴う費用は、会社にサポート頂いています。

    また、私自身も、立候補して、このD&Iチームの一員になっています。 月1回程度、社員向けワークショップやセミナー開催などの活動を行っています。それらの活動を通じて、自分に「居場所ができた」ような気がしますし、自分の存在価値を自分でも認められるようようになってきました。

    Q:「障害者を採用してもなかなか定着してもらえない(退職してしまう)」と心配している会社の声も多く聞かれますが、企業の取り組み事例などで成功している例があればいくつか教えて頂けますか?

    障害の種別にもよりますが、マネージャーと部下との1on1ミーティングなどで、「いまあなたに何が必要ですか?」「私はあなたにどんなサポートができますか?」という会話があると、自分を理解しようとしてくれていると感じて、何かあったときでも理解してくれるだろうという職場への安心感につながります。

    障害者の定着そのものを目的とするのではなく、マネージャーが部下を「個人」として理解しようとする姿勢があることが、双方の理解と、それに基づく信頼関係の構築に一役買うのではないでしょうか。そして、その対話を通じた個人の尊重が、なによりもその職場で頑張ってみようという気持ちにつながると思います。

    Q: D&I活動に対して否定的あるいは前向きでない人達に対して、どのようにその理解を深めていけばよいと思いますか?

    その人がD&I活動に対してなぜ否定的なのかをきちんと理解することが、一番最初にやるべきことだと思います。否定的な理由がわかれば、対策は考えられると思います。たとえば、その理由が「他人事」感があるから、ということであれば、「自分ゴト化」できるような取り組みを考えてみるのもよいでしょう。

    前向きでない理由がどこにあるのかということを、まず探ることだと思います。

    Q: 障害者の人にとって働きやすい、働き甲斐のある職場を実現するために、会社や社会に期待することがあれば教えて頂けますか?

    障害の有無にかかわらず、部下や同僚を「ひとりの人間として理解する」という姿勢があれば、それが働きやすさにつながると思います。お互いがお互いを理解しようとする姿勢が、会社や社会を変えていくと信じています。

    集合体から個のマネジメントへ

    今回は、突然の依頼にもかかわらず、気持ちよくインタビューをお引き受け下さった、南さんと、M.Nさんに感謝申し上げたいと思います。お二人の意見にもあるように、やはり、「自分らしさ」を大切にすることや、「ひとりの人間として相手の話を聴く」という当たり前のことがいかに大切かをあらためて認識させられたように思います。

    日本社会において高度成長期のときにみられた皆が一丸となって会社のために働き、会社が終身雇用も守るという時代は過ぎ去っています。今は、働き方、働く人が多様化し、それぞれ個人のニーズもバラバラになっています。以前と同じように、社員全体への「集合体」に対するマネジメントを続けようとすれば、各個人が会社に求めている期待に対して会社が受け止めきれない場面が出てくることと思います。

    その時、解決の糸口になるのは、「会社⇔集団」というアプローチではなくて、「会社⇔個人」という1対1の「個」の関係がより重要になってきます。そういう意味で、現場のマネージャーと部下との対話の質を高めるというのは、1対1の関係性を深める重要な機会だと思います。大きな予算を投じて新たな施策をうつのもよいですが、まずはそういう組織文化を醸成していく、今日ここでの対話の質を高めていくという地道な取り組みこそが、チームの質を高め、組織全体が多様性を尊重しつつ成果を上げていく、そして、様々な人が安心して働ける職場を作るための近道ではないでしょうか。

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