労働施策総合推進法の改正により、パワーハラスメント対策が2020年6月より研修実施等が雇用主の義務になっています。
改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が2019年5月29日に成立し、大企業では2020年6月、中小企業では2022年4月施行と、企業に対してハラスメント対策の強化が義務付けられました。~コロナ対応が一段落すれば是非取り組みましょう~
最近、マスメディアでよく取り上げられる話題に「パワハラ=パワーハラスメント」という言葉をよく見かけるのではないでしょうか。例えば、レスリング界の有名なオリンピック代表選手が、監督から、「XXコーチの指導は受けるな。言うことを聞かないと自由に練習させない、試合に出さない」というような監督からのパワハラ行為があったとして、監督を協会に訴えた事例は記憶に新しいかと思います。また、相手が不快になるような状態を「~ハラ(XXハラスメント)」という言葉で、「マタハラ(マタニティハラスメント)」「リモハラ(リモートワークハラスメント)」「カスハラ(カスタマーハラスメント)」など新たな種類のハラスメントも取り上げられてきています。
今回の記事では、職場において特に対応に注意が必要とされる「パワーハラスメント(いわゆる職場におけるいじめ・嫌がらせ)」に焦点を絞り、1. パワーハラスメントの定義、2. パワハラ相談の激増 3. パワハラが経営・職場に与える問題点、そして、2020年6月(中小企業は2022年4月)より、4. 会社に対して義務付けられた防止対策について簡潔にアップデートしたいと思います。
パワーハラスメントとは?
職場におけるパワーハラスメントとは、改正労働施策総合推進法(令和元年6月5日公布)により、以下の3つの要素をすべて満たすものとしています。
- 優越的な関係を背景とした言動であって
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
- 労働者の就業環境が害されること
よって、上司から部下へだけではなく、部下から上司、先輩と後輩、正社員と非正規社員の間など様々な関係の中で起こりうる可能性があります。
パワハラ相談の増加
厚生労働省の個別労働紛争解決制度実施状況調査によると、「いじめ・嫌がらせ(パワハラ)」に関する相談は、平成19年には約28000件であったのに対して、令和元年には、約87000件超となっており、この10年強で、3倍以上に増加しています。

また、別の調査では、各企業が、社内に設置した相談窓口で相談の多いテーマとして、パワーハラスメントに関する案件がもっとも相談が多く(100人以上規模の企業で55.8%)なっており、日本においては、セクシャルハラスメント(19.5%)やメンタルヘルス(30.7%)の相談よりも抜きんでて多い数字になっています。マスメディアでも頻繁に取り上げられ、パワハラに関する国民の意識が高まっていることもあり、以前では問題視されなかったような行為についても、経営者や人事担当者に適切な対応が求められる時代になってきました。但し、相談件数が全て、パワハラに該当したということではありません。経営者と労働者の双方がパワーハラスメントについて十分な理解をすることにより、こういった相談が起こらない職場にしていくことが肝要です。

パワハラが経営・職場に与える問題点
厚労省の調査(下図参照)によると、パワハラによる職場での悪影響として、「職場の雰囲気の悪化」「心の問題(メンタルヘルス)」「従業員の生産性の低下」などが挙げられています。昨今、多くの企業でメンタルヘルスの問題が取り上げられていますが、この一因としてパワーハラスメントの問題が潜んでいることにも留意が必要です。パワーハラスメントの放置は、社員の健康やパフォーマンスに悪影響を与えるだけではなく、企業イメージの低下につながり、求人をしても人が集まらない、ひいては消費者や顧客からも敬遠されるリスクがあることを十分に認識しなくてはなりません。また、最近では、上司が部下からパワーハラスメントだといわれることを恐れるあまり、部下に対して指導を委縮するケースも見られます。

会社に対して義務付けられた防止対策
改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が2019年5月29日に成立し、大企業では2020年6月、中小企業では2022年4月施行と、企業に対してハラスメント対策の強化が義務付けられました。厚生労働省が告示した「職場におけるハラスメント関係指針」には、具体的なパワハラの防止措置として次の3つが記されています。
- 企業の「職場におけるパワハラに関する方針」を明確化し、労働者への周知、啓発を行うこと
- 労働者からの苦情を含む相談に応じ、適切な対策を講じるために必要な体制を整備すること
- 職場におけるパワハラの相談を受けた場合、事実関係の迅速かつ正確な確認と適正な対処を行うこと
1. パワハラについての周知・啓発
職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化すること、及び、ハラスメント防止に関する規程を就業規則等の文書に規定し、労働者への啓発や周知を徹底すること。
会社として取るべきアクションの具体例:会社(社長)からの方針メッセージ、規定の作成、研修の実施
ポイント
より良い職場づくりには、社長自らが先頭に立って、全労働者に対して、パワハラを許さない意向を明確に伝える事が大切です。
パワーハラスメント研修については、利害関係のない人事実務と法律の両方に詳しい第三者が実施したほうが有効と考えます。その理由は、社内の人事担当者が研修を実施した場合、現にパワハラ問題が発生しているとき(もしくは、直近で問題が起きていたとき)には、人事担当者が利害関係のある立場になる可能性もあるため、聞き手にバイアスがかかることが予想されることと、また、パワーハラスメントに該当しないと言いきるべき事例についても担当者が説明に躊躇する可能性がでてくるためです。
2. 相談体制の整備と 3.適切な対処
パワハラの相談窓口を設置し、これをメールやチャットなどで従業員全員に周知するようにします。また、相談を受けた場合には、事実関係を迅速に確認し、再発防止に向けた措置をとることが求められます。なお、相談者が不利益を被らないよう、プライバシー確保に配慮することも大切です。
会社として取るべきアクションの具体例:相談窓口の設置と周知、事後の適切な対応に向けたプロセスの確認、加害者についてはパワハラ防止に関する外部の研修に参加させる(再発防止例)
まとめ
多くの会社では、セクハラの相談窓口設置の経験から、パワハラ窓口についても設置の検討されているところが多いかと思います。その一方で、啓発の部分にあたる研修については、コロナ禍の中、まだ全社員に実施できていない会社も多いのではないかと思われます。また、一度実施して終わりではなく、新入社員が入ってくるたびに定期的に必要な研修になってくることでしょう。
専門家による最適なパワーハラスメント研修
人事戦略、報酬、採用、労務管理等に関して20年以上の経験をもつ人事コンサルタント また、テンプル大学にて労働法の講師として教鞭をとっている。 近著に、「日英対訳 労働法の基本と実務」中央経済社”>弊社では、御社のご都合に合わせて、2時間~3時間でオンライン研修・集合研修両方に対応したパワーハラスメント研修(パワハラ・セクハラ両方も可能)を実施しております。
また、パワーハラスメントを法律的な事項として頭で学ぶだけではなく、参加者自身のハラスメント感度チェック、感情をコントロールする方法、グループディスカッションを通じて心で理解することにより、よりよい職場のために何が必要かという本質的な行動変革を起こす研修を行っております。パワハラを起こさない職場づくりのためには、やはりリーダーとなる方の行動、そして、お互いが相手への敬意を失わない双方向のコミュニケーションが基本となります。
ご関心あるかたは、是非ご連絡ください。